腎臓病の症状である食欲低下と老化による体力低下が合わさり、腎臓病の老犬はみずからごはんを食べないことがほとんどです。
腎臓病にとって食べないことが一番の敵であることから、ごはんにまったく興味を示さない老犬に悩んでいる方が多いはず。
たとえば、療法食も缶詰も食べない日が2~3日続きクスリも飲ませられない状況だったり、ごはんも食べずにお水も飲まなくなり、だんだん体重が減ってきたり。
今回は、慢性腎臓病になっている、もしくは腎不全の老犬の食欲不振に困っている飼い主さんに向けた内容になっています。
ごはんを食べない時の原因や対処法がわかるだけでなく、食事を少しでも楽しいと感じてもらえる工夫ができるようになりますのでぜひごらんください。
この記事の著者
- ペット栄養管理士
- 犬の管理栄養士
- 上級食育アドバイザー
- 日本ペット栄養学会正会員
- Bowls Fresh Dog Food 開発チーム
- 手作りごはん歴7年
- 食品衛生管理者
くわしいプロフィール
自身と暮らしているチワワがフードを食べなくなったことがきっかけで、手作りごはんに興味を持つ。
日々実感する手づくりご飯の魅力を伝えるべく、犬のごはん作りに関するブログ「チワワごはん」を開設。
ブログ運営の傍ら、犬の食事相談や栄養指導に励み、指導数は100匹以上にのぼる。
現在は、企業とのレシピ開発やコンサルにも力を注いでいる。
ブログ月間1.5万PV以上、インスタグラムのフォロワーは3.6万人ほど。著書「栄養満点なチワワごはんの作り方」
腎臓病(腎不全)の老犬が食事を食べない原因
- 毒素が排出できず体をめぐり、倦怠感があるから
- 病気とたたかっていて体力を使っているから
- 老化により食べる体力が落ちてきているから
腎臓病を患うと、ごはんへの興味がうすれ、自分から食べようとしない愛犬が多いです。
ごはんを食べない原因を理解することで愛犬の体のなかで起きていることがわかり、どうしたらよいのかイメージすることができます。腎臓病とたたかう愛犬をサポートするためにも、食欲が低下している原因に目を通しておきましょう。
毒素が排出できず体をめぐり、つねに倦怠感や吐き気があるから
腎臓は、体に有害な毒素や老廃物をおしっこに流すはたらきがあります。腎臓の機能が低下してしまうと、毒素の排出回数や量が減ってしまいます。
腎臓の75%の機能低下が疑われると慢性腎臓病から腎不全となり、排出できない毒素の量が多くなることで、有害物質が血液にのって体中をぐるぐるとまわっている状態になります。
その結果、全身のだるさや吐き気から食欲の低下をまねくことがあります。
病気とたたかっていて体力を使っているから
病気とたたかっている犬の体は、1心臓を動かすなどの生命維持→2病気とたたかう→3ごはんを食べるの順番で体力が使われていきます。
腎臓病は体力の消耗がはげしい病気で、2番で大きく体力を削られてしまい、なかなかごはんを食べる体力が残っていないことが多いです。
私たちが高熱を出した時に食欲が低下するのと同じで、体が一生懸命病気とたたかっているからこそ、食欲は低下しやすいです。
老化により食べる体力が落ちてきているから
腎臓病の老犬は加齢による体力の低下と病気による体力の消耗が加わり、より体力が落ちていきやすいです。
じつは体力と食欲はふかい関わりがあり、食べものの消化吸収を行うためには10種以上の臓器を動かす体力が必要になるため、体力が落ちるにつれて食欲も落ちやすいです。
腎臓病(腎不全)にとって食べないことが一番の敵と言われている理由
腎臓に大きな負担をかけてしまい、数値が悪化してしまうからです。もう少し詳しく理解するために、ごはんを食べない犬の体のなかで起きている事をカンタンにまとめました。
- ごはんを食べないと必要なカロリーや栄養素が足りなくなる
- 筋肉を分解し、エネルギーとして使うようになる
- 腎臓はタンパク質から毒素や老廃物を取り、排出する臓器
- 筋肉はタンパク質でできているため、分解されるほど腎臓の仕事と負担が増える
- 機能が低下している腎臓のもとへタンパク質が送られ続け、毒素が排出できなくなる
- 体に不要な金属や毒素、老廃物がたまり、数値が悪化してしまう
- 筋肉が分解され、体力低下にもつながる
なにも食べないことは、お肉やお魚の多い食事よりも腎臓の負担が大きいです。
体力低下や数値の悪化だけでなく腎臓の負担を減らすためには、ごはんを食べない時のアプローチ方法を知り、どう食べてもらうか工夫することが大切です。
腎臓病(腎不全)の老犬が食事を食べない時の対処法
食事をとってもらう重要性は理解できたものの、なかなか自分から食べない愛犬にごはんを食べさせる方法がわからず、毎日不安を抱えている方が多いはず。
以下では、腎臓病の老犬がごはんを食べないときの対処法をまとめています。これがダメでもあの方法であげてみようと柔軟に対応できるよういくつか対処法を載せていますのでぜひごらんください。
1.流動食にする
流動食にするとフードのニオイが強くなるため、いつもと同じフードでも興味を持ってくれることがあります。消化にやさしく水分補給もでき、嘔吐や下痢が多いときに適した食事方法です。
つくりかたは、腎臓ケアのドライフードとフードが半分つかるくらいのぬるま湯をミキサーにいれ、混ぜます。
何回か混ぜドロッとしてきたら、スプーンでお口の近くに持っていきましょう。スプーンから食べなかった時は、指やてのひらに流動食をつけ、少しずつあげてみてください。
それでも食べない時は腎臓ケア用の缶詰やウェットフードを少し足し、ミキサーでいっしょに混ぜ、再挑戦してみてください。
2.普通食を与える【要相談】
腎臓ケア用のフードを食べない場合は、獣医師と相談したうえで、腎臓ケア用でないフードをあげるという選択肢もあります。
腎臓病とたたかう体力をつけ、進行をゆっくりにするためにも「食べること」が大切です。
どう工夫しても療法食を食べず、飼い主さんがコレなら食べるかも…と思いあたりがあるフードがあるのであれば、一度獣医師に相談してみましょう。
3.トッピングをする
腎臓をいたわる食べものでおかずやスープをつくりドッグフードにかけると、いつもと違うごはんに興味をもってくれることがあります。水分補給と栄養素補給が同時に行え、脱水による腎臓機能の低下を防げます。
低リン・低ナトリウムで腎臓をいたわる食材
犬が食べられる食べものの中でもリンとナトリウムが少なく腎臓にやさしいため、安心して与えて大丈夫です。
にんじん、なす、とうがん、だいこん、キャベツ、レタス、ピーマン、パプリカ、トマト、ゴーヤー、ちんげん菜、小松菜、かぶ、もやし、白菜、きゅうり、かぼちゃ、ごぼう
茹でた卵の白身、豚足、とりもも肉、豚バラ肉、手羽先、羊、牛肩ロース、馬肉。
タラ、ブリ、さんま、さば、無塩ツナ缶、ひらめ、かれい、マグロのトロや中落ち。
豆乳、絹ごし豆腐。
白米、ハトムギ、赤飯、じゃがいも、くずきり、はるさめ、長芋
これらの食材からバランスよくえらび、適量カットしてお水で煮込んだらフードにかけてあげましょう。
4.シリンジで与える
シリンジを使ってごはんを与える方法は強制給餌(きょうせいきゅうじ)と呼ばれ、介護が必要な老犬や自分からごはんを食べない老犬に取り入れる食事方法です。
流動食を作ったら、注射器のようなシリンジと呼ばれるものを使って吸い、愛犬の口にいれ、食べてもらいます。
シリンジでごはんを与える時のだいたいの流れ
こちらの動画では、実際にシリンジでごはんを与えている様子が見れ、コツや絞り出す場所などを知ることができます。まったくイメージが湧かないという方は一度見ておくと理解しやすいです。
シリンジでごはんを与えるときの注意点
間違った与え方は誤嚥性肺炎(食べものが変なところに入ってしまい起きる肺炎)を引き起こす可能性があります。こちらの動画では危険性について触れています。獣医師や動物看護師に聞く、またはYouTube等で知識をつけてから行いましょう。
シリンジでごはんをあげるのってかわいそうじゃない…?
この食事方法が使えるのはあくまでも「愛犬がイヤがっていない時」のみです。自分からごはんは食べないけど、口まで運んだら食べるという状態の愛犬に適しています。
栄養素やカロリーが補え、体力低下や腎臓の負担が軽減できるメリットがあります。デメリットは、愛犬がいやがる場合はお互いに精神的苦痛になりやすいことです。強制給餌はいろいろと考えがあると思います。
愛犬と飼い主さんの気持ちを最優先に考えたうえでメリットデメリットを比べ、挑戦するかどうか決めていきましょう。
愛犬の負担になりにくいシリンジの選び方
- 先端にやわらかいチューブが取り付け可能か
- お水やお薬、ドロドロした流動食で利用可能か
- mlと愛犬の口の大きさが合っているか
ほとんどのシリンジは先端がかたいプラスチックでできており、口に当たると痛そうにすることがあります。
先端にやわらかいチューブが取り付けできるものは、愛犬の歯茎や歯にあたっても傷つかず、お口に優しいです。
mlが多いほど先端とシリンジが大きくなります。たくさんの食事を与えられる分、小型犬の場合は先端が大きすぎると口に入れることが難しくあふれてしまう事があります。
お互いに負担にならないごはん時間にするためにも、レビューをもとに愛犬の体重に合わせたmlを選ぶことが大切です。
先端チューブ付きで小型犬に適しているシリンジを見つけました。
ほかのシリンジよりも先端と本体が小さく、口の小さな小型犬でも口の中にいれやすいため、はじめてでも嫌がられにくいです。愛犬に適した先端やサイズを選び、愛犬の負担を少しでも減らしましょう。
5.手作り食をつくる【最終手段】
フードをどうしても食べない場合は手作り食も視野にいれてみましょう。実際に、腎不全をもつ老犬のごはんに手作り食を取り入れている飼い主さんは大勢います。
フードに一切興味を示さないのに人間の食べ物にはニオイを嗅いで興味津々な姿をみてはじめた方や、腎臓ケアのフードを食べると嘔吐や下痢がひどく、みていられず手作り食に。と、はじめる理由はさまざまです。
腎臓の悪い犬に手作りごはんを与えることは、体にとってメリットが多く、腎臓をいたわりやすいです。
腎臓病の犬に手作りごはんが与えるいいこと
- 水分が多いため腎臓のろか機能を助け、毒素を排出しやすくなる
- 添加物やリンがとても少なく作れ、腎臓の負担を最小限に抑えられる
- 腎臓の機能低下を防ぐ食べものを好きなように取り入れられ、より腎臓ケアができる
- 消化にやさしいから、下痢や嘔吐など消化器症状がでているときにも胃腸にやさしい
- 飽きやすく好き嫌いがコロコロ変わる腎臓病の特性にも対策がうて、食べムラを防止できる
手作りごはんは添加物の少なさ、水分の多さ、消化にいい点など、腎臓に負担をかけない特徴を多くもったごはんで、腎臓ケアにもっとも適している食事です。興味がある方はぜひチャレンジしてみて欲しいです。
腎臓ケア用の手作り食をつくるには、リンやナトリウム量を注意して食材選びをする必要があります。
腎臓に負担をかけないだけでなく、症状を悪化させないためにもしっかり勉強してから作ることをおすすめします。
6.通販を利用する
腎臓病用の愛犬ごはんは、腎臓に負担をかけないための注意点や栄養面でのポイントが多くあり、覚えることが多数あります。料理が得意でない人や自分で栄養面を考えてつくれる自信がない人も多いはず。
通販では、獣医師や食育指導士、ペット栄養管理士が腎臓病の愛犬用に栄養設計した無添加の手作りごはんが売られています。
とり過ぎると進行をはやめるリンやタンパク質、ナトリウムやカリウムなどがしっかり計算されているため、腎臓病の老犬にも安心して手作りご飯を与えることができます。
なかなか自分で作るイメージがわかない方は通販を上手に活用し、腎臓ケアを行ってみてはいかがでしょうか。
腎臓の悪い老犬にいい食事とは
腎臓に負担をかけずにいたわることができる食べものを使った食事は、症状の悪化や進行をはやめるのを防ぎます。
- 腎臓に負担をかける添加物や塩分、リンが少ない
- 毒をおしっこで出すため水分を多く含む食事
- 毒素を増やさないよう良質なタンパク質(とり、牛、豚、白身の魚)をえらぶ
- オメガ3脂肪酸を多く含んだ魚(ぶりやさば等)を中心に
- 毒素を排出する水溶性食物繊維(海藻やキノコ類)を適度に
- 免疫力をアップする緑黄色野菜を適度に
これらのポイントをおさえた食事は腎臓にやさしいのはもちろん、蓄積している毒素の排出を促し、病気とたたかう抵抗力がつき、愛犬の負担も軽減してくれます。
食事療法が要である腎臓病にとって、腎臓をいたわるための食材えらびと栄養素の制限が大切です。
逆にこんな食事は腎臓ケアに良くない
腎臓が悪い老犬にとって、添加物やリンの多い食べもの、味の濃い加工品などは負担になります。
- 療法食にお肉類をたくさんトッピングする
- ちゅーるなど味が濃くお肉メインのおやつのトッピング
- 水分量が少ない食事(水は腎臓の消化を助けるため)
- 大豆が中心の食事(必須アミノ酸を満たしていないため)
- ちくわやかまぼこなど加工された食品(リンやナトリウム、添加物が多いため)
とくに注意すべきはリンの多い食材です。
リンが多い食材
豚ひれ肉、とり胸肉、ささみ、レバー、豚もも肉、たまごの黄身。
かたくちいわし、ごまさば、干しえびやしらす、かつお節。
そらまめ、切り干し大根、えだまめ、油で炒めたブロッコリー、とうもろこし。
玄米、そば
リンは、基本的にハムやソーセージなどのお肉やお魚の加工食品に多く、脂身がなくヘルシーなお肉やお魚に多く含まれています。
一口食べたら腎臓が悪くなるという食材ではないため神経質になることはありませんが、なるべく控えて、ほかの食材から栄養素をとるようにしましょう。
さいごに:食事次第で腎臓の進行をゆっくりにできる!
腎臓病はお薬や手術での治療がむずかしく、食事の内容次第で2倍以上進行スピードが変わってくることから、食事療法が軸となります。
進行スピードだけでなく別の病気の発症リスク、症状の悪化などを防ぐためにも腎臓をいたわりつつ、ごはんを食べてもらえるよう工夫することが大切です。
いきなり腎不全と診断されごはんを食べない事や、なにをあげてよくてなにをあげたらだめなのかわからず、不安な日々を過ごしている方も多いと思います。
しかし、食事の時間を楽しくできる工夫や食べられるものはたくさんあります。
ごはんを食べない老犬の姿をみて心配でたまらない方にとってすこしでもお役にたてればうれしく思います。
参考文献
Richard C Hill(2009) Conference on “Multidisciplinary approaches to nutritional problems”. Symposium on “Nutrition and health”. Nutritional therapies to improve health: lessons from companion animals
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