この記事では、ビヨ・ファーマ様からお仕事依頼を受け、レシピ開発から試作品づくり、販売され飼い主さんの手に届くまでを記録しています。普段、知ることのないペット用食品ができあがるまでの道のりを依頼者の許可を受けて執筆しています。
今回のお仕事の依頼内容
漢方の食べものを使って
病気を予防し、健康をとどける
おやつやフードを作りたい!
依頼者
ビヨ・ファーマ 社長
辻本貴紀氏
漢方に詳しい人間のお医者さんと3人の薬剤師さんの「ペットの病気を防ぎ、ペットたちに健康を届ける食品を作りたい」という思いから作られた会社。
病気になってからではなく、軽い体調不良や元気な状態のときに生薬を取り入れて体調を整える事で、多くの犬猫の明るい未来を作れると考え、生薬を使ったペット食品の販売に力をいれている。
くわしいご依頼内容
- 生薬(みかんの皮やしょうがなど)を使った犬や猫の食品のレシピ開発と試作品づくり
- モニター様への食品提供
- まずはクッキーから取り掛かり、ふりかけ、フード作りへの依頼続行予定
レシピのテーマ
- 犬猫がよろこんで食べるおいしさ
- 産地や農薬にこだわった食材選び
- 漢方の力が最大限発揮できる栄養素をもつ食材の組み合わせ
- 健康をサポートする食品を目指すため、太りやすい食材は避ける
病気をふせぐというコンセプトに共感でき、
打ち合わせの段階でワクワクしています。
味見はまかせてモナ
はじめての打ち合わせ/2022.7.10
ご依頼後1回目の打ち合わせでは、あらかじめビヨ・ファーマのみなさんが練っておられた、生薬を使ったクッキーのレシピ4種類を確認しました。
\なつめクッキー/
働き:イライラを抑え、睡眠を助ける
生薬:なつめ
+
\オレンジクッキー/
働き:食欲を刺激し、元気に!
生薬:みかんの皮
+
\山芋クッキー/
働き:食欲を刺激し、元気に!栄養補助も
生薬:山芋、生姜
+
\魚クッキー/
働き:脂肪燃焼、動脈硬化改善
生薬:杜仲茶エキス
+
上記のレシピをもとに犬猫たちにおいしく生薬を食べてもらうための食材や、生薬のはたらきを助ける食材を足していくことに。
なつめクッキーから試作品づくりを始めていき、レシピの提案→試作品づくり→試作品を辻本さんに郵送→打ち合わせという流れになりました。
▼生薬ってなに?
漢方薬に使われる材料のことです。
漢方薬とはちがい副作用がなく、身近な食べもので食べやすさもあり、毎日の生活に取り入れやすい特徴があります。
イライラを沈めたり、食欲を刺激したりと体へのはたらきかけが強い食材が使われています。
なつめクッキーレシピ構成
なつめクッキー原案
材料:なつめ、バナナ
プラスした方がいい!と思った食材
なつめの良さを100%引き出すため、腸内環境をととのえる食物繊維が豊富なおからパウダーをクッキー生地に。
リラックス効果のあるアミノ酸やビタミンをもれなく吸収させるため、栄養価の高いたまごを追加。
高温で焼き、常温保存することを踏まえ、熱や酸化に強く劣化しにくい動物性脂肪のバターを使用。
最終的に完成したレシピ
無塩バター、おからパウダー、たまご、なつめ、バナナ
小麦粉ではなくおからパウダーを選んだのは、食物繊維の量の多さとカロリーの低さ、整腸作用の面で最適だと考えました!
レシピを辻本さんに確認してもらい、GOサインをいただいたのでなつめクッキーから取り掛かりました。
第1回試作品づくり「キューブクッキー」/2022.8.1
キューブ型で層状のクッキーを希望されていたため、食材を3つにわけた生地づくりを開始。
各層の水分量やたんぱく質量のちがいにより、トラブルが発生し、なかなかうまくいきませんでした。
焼き上がり時の層がバラける
生地を休ませ取り出すと離れる
生地の水分量を多くすることで密着性をあげ、あらかじめ層を重ねてから冷凍庫で休ませると、キレイに層がくっついたクッキーが出来上がりました。
\出来上がった試作品No.1がこちら/
各層しっかりわかれつつ、ピタッと密着する理想のレシピにたどり着きました。層ごとに食材をわけることで、色合いがでて層の存在感があり、辻本さんのイメージに近づけたのではと感じました。
クッキーのサイズも確認していただくため、小さいもので1センチ角から大きいもので3センチ角のサンプルもいくつかお送りしました。
モナの食いつき:
大きいサイズのクッキーは食べにくいようで、前歯で噛んで食べていましたが途中諦めることが多く、あまり積極的に食べませんでした。
小さいクッキーは写真のように勢いよく反応し、奥歯で噛みながらおいしそうに食べていました。
モナの食いつきを含め、クッキーの見た目と使った材料、大きさ等を辻本さんに写真で確認してもらいました。
写真を送ったところ、辻本さんたちが描いているイメージに近かったようで、とても喜んでおられ、私もうれしかったです。
さっそく試作品をつくり直し、辻本さん宛に郵送し、数日後に打ち合わせをしました。
辻本さんの第1回試作品の感想
▼見た目
実際に見てみると見た目がシンプルな分、パッと見たときのインパクトが少ないように感じる。
▼食感
おからクッキー特有のパサパサ感でヘルシー感はあるが、もうすこしサクッと感があるとよいかも
▼食いつき・味
やや味がうすめ。クリームやジャムなどを使うとよりおいしくなり、食いつきが期待できるのでは。
実際に届いたものをみると、見た目にさみしさを感じました…
キューブ型クッキーの見た目と食いつきを解決するため、ぺーストをクッキーで挟んだクッキーサンドやジャムをのせたジャムクッキーなどの案がでました。
ぺーストは水分が多く、食品の安全上どうしても保存料や保湿剤が必要になります。そこで、添加物をつかわずに作れるジャムクッキーを作ってみよう!という流れになりました。
ジャムクッキーの試作はオレンジクッキーのレシピでつくることに。
オレンジクッキーのレシピ構成
オレンジクッキー原案
指定された材料:ちんぴ(みかんの皮のパウダー)、オリゴ糖、ヨーグルト
プラスした方がいい!と思った食材
ちんぴの良さを100%引き出すため、腸内環境をととのえる食物繊維が豊富なおからパウダー、みかんの皮そのものをクッキー生地に。サクッと感を出すために米粉を追加。
乳糖を含まず、科学的に犬の整腸作用があることがわかっているフラクトオリゴ糖に。
高温で焼き、常温保存することを踏まえ、熱や酸化に強く劣化しにくい動物性脂肪のバターを使用。
最終的に完成したレシピ
クッキー生地:無塩バター、おからパウダー、米粉、ちんぴ(みかんの皮パウダー)、みかんの皮、フラクトオリゴ糖、ヨーグルト
ジャム:みかんの皮、みかんの実、フラクトオリゴ糖
ヨーグルトは、犬の腸内環境改善報告がある乳酸菌(B.ロンガム、LKM512等)を含むヨーグルトを選びます。
第2回試作品づくり「ジャムクッキー」/2022.8.22
オレンジクッキーのレシピが完成し、2回目の試作品づくりに挑戦。
まずはジャムづくりから。砂糖を使ったジャムより保存性はやや劣るものの、オリゴ糖だけでもジャムがつくれることがわかりました。
みかんが店頭に並ばない時期だったため、農薬をとりのぞいたオレンジの皮と実で代用することに。
▼オレンジの皮の農薬について
海外産のオレンジやレモンの皮には、輸送中の劣化を防ぐため、防カビ剤や農薬がいくつも塗られています。
農薬を除去するため、北海道消費者協会の実験(茹でることでオレンジの皮の農薬を61~91%減らすことができた報告)を参考に農薬除去を2回行いました。
煮る時間や火の強さ、かき混ぜるスピードなどでこまかく粘度が変化し、ジャムクッキーに適した粘度をつくるのに苦戦しました。
ジャムが緩く、
クッキーからジャムが漏れる
水あめのようなかたさで
盛り付けづらく食べにくい
クッキーがしなしなで、
苦みも強い
皮を取り除いた実の重さの1.2倍の水をいれ、弱火で煮たあとに裏ごしをした果汁を使うことで、透明度があり、クッキーに吸収されないジャムができあがりました。
しかし、まっすぐな生地で、割れ・折れのない生地を作るまでも時間がかかりました。
そりかえり、ジャムが横から漏れる
成形しずらく、割れやすい
成形しやすく、反り返らない適度な水分量になるレシピを目指し、ジャムとの相性を見比べながら完成したのがこちらです。
\試作品No.2ジャムクッキー/
まさにオレンジクッキーといった色合いとかわいらしい形に仕上がりました!
オリゴ糖ジャムが適度にあまく、私もおいしくいただいました。
モナの食いつき
キューブクッキーよりもよく食べていました。
オリゴ糖をいれることで、よりおいしく食べられるようです。
ただ、ジャムがひげや口周りの毛につき、ベタベタすることがあり、食べているときに本人が気になっているようでした。
モナが食べている様子をみていると、食べているときにひっくり返り、ジャムの面が床についてしまうことがりました。平たいかたちのクッキーは犬にとっては食べにくいのかもと感じました。
それらの私の感想を含め、レシピと試作品を辻本さんに送り、再度打ち合わせをしました。
辻本さんの第2回試作品の感想
▼見た目
犬のクッキーではあまり見られないようなデザインが良い。
▼食感▼食いつき
おかららしさはなく、キューブよりもほんのり甘いので食べてやすいと思う!
とてもかわいいです!
個人的にはキューブより断然ジャムクッキーが好みです!
見た目のかわいらしさとおいしさから、すべてジャムクッキーにしようという流れになりました。レシピごとのクッキー生地はあまりいじらず、ジャムの中身を変えることで統一感がでるのではという話に。
数日後、数名のモニターの方を対象に、飼い犬の食生活やおやつに関するアンケートをとることになりました。
キューブとジャムクッキーの現物をみてもらい、どちらが興味をそそられるかも聞いてみることにしました。
アンケート結果の打ち合わせ/2022.9.20
アンケート結果をまとめると、このような感想が多くみられました。
「そこまで見た目は重要視していない」
「食感や産地でえらぶ」
「キューブクッキーとジャムクッキーどちらでもよい」
「ジャムクッキーはかわいいけど、普段用ではない気がする。ギフトやお誕生日用ならいいと思う」
「クッキーのデザインはあまり見ないから、キューブの層はわけなくてもいいと思う」
見た目を重要視している飼い主さんは少なく、食材の質が大切だと感じる方がほとんどだという事がわかりました。
ジャムクッキーをお見せしたら驚いてくれると思っていたので、
正直、悔しさを感じました…
見た目ではなく質にこだわる部分が、フードを選ぶときの基準と似ているのかもしれません…
一般的な犬のおやつの見た目
ジャーキーやぼうろ、せんべいなどのおやつの形は結構バラバラで、デザインもシンプルなものが多いことに改めて気づきました。
たしかに、私も犬のおやつを買うときにデザインを気にしたことはなく、どちらかというと食材の内容で選ぶことが多いことに気づきました。
今回のアンケート結果をもとに、見た目にこだわるよりも、食材の産地や食感にこだわる方が飼い主さんの愛犬のよろこびに繋がるということがわかりました。
おいしければいいモナよ~
・キューブ型を製品の第一候補に
・キューブの層はわけずに混ぜる
・食感をいくつか用意する(やわらかめ、ふつう、かためなど)
改善点をレシピに取り込み、あたらしく食感別のレシピをつくりました。
焼き時間の延長や仕上げのレンジでの加熱などで3つの食感を再現しました。
アンケートに続けて、試食モニタリングに参加していだたける方をつのり、キューブクッキーの試作品を送り、実際に食べてもらったうえでアンケートをしてもらうことになりました。
モニターの方への試供品づくり/2022.9.25
1人6つの試作品を15セットほど作成しました。
▼モニターの方1人分の試作品
・オレンジクッキー「やわらかめ」「ふつう」「かため」
・なつめクッキー「やわらかめ」「ふつう」「かため」
試作品をまとめて辻本さん宛に郵送し、数日後、事件が起こりました。
事件:なつめクッキーにカビ発生
10/3に「未開封のなつめのやわらかめに、カビが生えてしまっている…」と辻本さんから連絡がきました。写真をみた瞬間ショックを受け、とても申し訳ない気持ちになりました。
製作し郵送した日:9/25
↓
辻本さんのもとに届いた日:9/30
↓
カビ発生・繁殖日:10/3
なつめのやわらかめは、クッキー製作日から約1週間しか持たないということがわかりました。カビが発生した原因は水分の量の多さ・焼き時間の少なさ・梱包の不十分さ等が考えられます。
数週間後、常温開封後でもふつうやかためではカビが発生しなかったことから、やわらかめのみ修正が必要だという話になりました。(なつめやわらかめに遅れて、オレンジもカビが発生しました)
辻本さんにもモニターの方にも、本当に申し訳ないです…
いえ、試作段階ですので!しかし、モニタリングはもう少し消費期限やカビの様子をみてからの方がいいかもしれませんね。
・なつめ、オレンジのやわらかめレシピの水分を減らす
・同レシピの焼き時間の延長
・梱包はシーラー(熱で袋を溶接する機械)を使い、空気を密閉し、酸素を通さない袋を選ぶ
そして、常温や冷蔵、開封後、未開封時などさまざまな条件で各クッキー保存し、味や見た目、ニオイなどをもとに消費期限やカビの発生の有無を調べました。
なつめとオレンジクッキーの消費期限は現在もまだ調査中です。
その間に、山芋クッキーと杜仲茶クッキーの試作品づくりに取り掛かっています。続報は随時書いていきます。
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